ユルゲン・シュレンプ―ダイムラー・クライスラーに君臨する「豪傑」会長 4152083816 早川書房
■Amazonエディターレビュー 米クライスラーの買収や三菱自動車との提携などの一連のグローバル戦略が、日本でのユルゲン・シュレンプの注目度を高めたのは間違いない。それが見習いの自動車整備工から身を起こし現在の地位にのぼりつめたキャリアの持ち主だというなら、なおさら興味がそそられる。 このユルゲン・シュレンプの半生をまとめた本書は、ただ華々しいキャリアをなぞっただけのものではない。著者は「事実を述べて称賛し、分析して崇拝し、適当なところで格好をつけるために批判を加える」というビジネス評伝にありがちなスタイルを真っ向から否定し、シュレンプに批判的な関係者の声も積極的に集め、より客観的に人物評価を下そうというのだ。これが本書を一層おもしろくしている。 たとえば、著者はシュレンプを「ハイエナ」になぞらえ、味方には褒美を与え、敵は徹底してたたきつぶす権力主義者としての一面を多数の証言から描き出している。1996年に、世界最高の経営者の1人との呼び声もあったメルセデス・ベンツ会長のヘルムート・ヴェルナーを追い落とし、グループ再編を成し遂げていく様子は実に象徴的である。また、著者はシュレンプのメルセデス・ベンツ南アフリカ会長時代のアパルトヘイトへの姿勢に疑問を呈したり、家庭内のスキャンダルを暴いたりもしている。数万のリストラを敢行した「ドイツのランボー」、強硬論者、破壊者…、こうした異名の真相に鋭く迫るのだ。 一方で、その客観的な視点は、シュレンプの交渉力やスピーチ力、リーダーシップなどの傑出した面をも浮き彫りにしている。クライスラーとの大合併などでイニシアチブを握る手腕が、どのような個性から生まれるのかがわかり非常に興味深い。 本人の了解を得て、これだけ書けたというから驚きである。その批評眼により、株主利益優先の「徹底的資本主義」の真価やグローバル戦略の行く末を計ることもできるため、経営のケーススタディーとしてもおもしろく読めるはずだ。(棚上 勉) |