本書の特徴は、著者が提唱している「クチコミュニティ・マーケティング」と、単純な広告手法としての「口コミ」との違いなどについて、前作よりも豊富な検証データを挙げながら解説している点である。さらに、クチコミに対するありがちな誤解、たとえば「クチコミに成功しさえすれば、商品は勝手に売れていくのではないか」といったものに対する回答も充実しており、企業のマーケティング担当者にとっては、手厳しい記述も多い。しかし、本書は改めて「クチコミュニティ・マーケティング」に関する基礎の基礎から説明しているため、前作を読んでいない人も、その本質を理解することができるはずだ。また、インターネットを使った「ネットコミ」の情報にも紙幅を割いており、クチコミが起こりやすいサイトの作り方などといった具体的なテクニックまで、惜しげなく披瀝している。
前作でも、クチコミ以前の問題として、企業の理念をしっかりと立てて、消費者の目線に合わせた商品やサービスを開発することの重要性を説いていたが、本書でも、それは全く変わっていない。むしろ、そういった基盤をないがしろにしている企業や団体に対し、消費者の目が一層厳しくなっていることを強調している。企業経営者やマーケティング担当者にとって、本書は、自社の足もとを見直すきっかけにもなるに違いない。(朝倉真弓)
科学的、かつ論理的にクチコミを扱った本は多数あるが、本書はあくまでも著者の成功体験がベースであり、クチコミの主役となる女性の、「なんとなくイヤ」、または「良さそう」という直感が、どれだけ購買に影響を与えるのかが追体験できる。その体験や事例を、感覚論よりもロジックを重んずる男性にも理解できるように説明しているのが特徴である。文章は論理的であるが、事実に裏付けられているという勢いや自信も感じられる。
ところで、書名にもなっている「クチコミュニティ・マーケティング」とは、集団のなかでクチコミを発生させるしかけやしくみを指す、著者の造語である。クチコミュニティは顧客の集まりではなく、あくまでも「共通の価値観を持った人たちの集まり」であり、「購買の意志決定に至るときには、確実に大きな力を発揮する」集団である。クチコミュニティによるマーケティングが即効的な広告宣伝効果をあげるかどうかは疑問であるが、商品に対する信頼や共感を高め、じわじわとファンを増やすためには有効だといえる。クチコミの実践例を知りたい人におすすめしたい。(朝倉真弓)